「ヒーロー」
セットアップ、
左足を軸に体を捻りながら右足その膝をクイと持ち上げる、
ほんの少し遅れて、白球を握った手首が背面の地に向けてすっと伸びる、
張り出した胸がキャッチャーミットに向け正対する、
左腕筋肉がしなやかに巻かれながら高くへと畳まれていく、
キャッチャーミットに正対した胸が直下の地に向けてぐいっと下される、
ほんの少し遅れて、高く畳み込まれていた左腕が素早く解き放たれながらぐいと振り下ろされる、
左手首から飛び出た白球がキャッチャーミットめがけて唸りをあげる。
過剰がない、
過少もない、
その究極バランス、
秀岳館2年投手川端健斗のピッチング。
心身の究極バランスの美は、見ている人の心身を一瞬バランスする、
心身のバランスが得られれば、人はみずからの心身の過剰過少の別称、愛や憎しみという名の感情からいっとき解放される。
「愛の表現は惜しみなく与えるだろう、しかし、愛の本体は惜しみなく奪うものだ」(有島武郎)
人はみずからの心身の過剰過少を補うため「ヒーロー」を生み出して惜しみのない愛を与える。
その「ヒーロー」は人の心身の過剰過少を補うため「ヒーロー」であり続けることを求められる。
人は、その「ヒーロー」の心身の過剰過少を見て見ぬふりをする、
見て見ぬふりをしてみずからの心身の過剰過少の補填をなお求める。
その愛は「ヒーロー」を惜しみなく蕩尽し、奪う。
「父上様、母上様、幸吉は、もうすっかり疲れ切ってしまって走れません。
何卒お許し下さい。
気が安まる事もなく、御苦労、御心配をお掛け致し申し訳ありません。
幸吉は父母上様の側で暮らしとうございました。」
(円谷幸吉「遺書」)
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